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いる。大学の体育館に出入りするトレーナーたちは、みな勉強熱心で、新しいギアやメソッドについて知りたがっていた。そして自分が実際に使うと「これ、いいね!」と言って、仲間のトレーナーやクライアントやアスリートにも勧める。こうした光景を日々目にしていたランディさんは、商品より先に「教育」を売りにしていこうと考えた。そして、2007年から積極的にセミナーを展開していたのである。 また、トレードショーに出展し、とにかくトレーナーたちに体験して貰う機会を増やしていった。中でも、2006年のIDEAコンベンションでは爆発的な反響があり、用意していた在庫が売り切れるほど飛ぶように売れていった。ランディさんはこの時点でTRXの将来性を確信する。そしてそれまでなかった「サスペンショントレーニング」という市場を作ろうと、ブランドフィロソフィーを明文化した。 「Democratize world class training(全ての人たちに、この素晴らしいトレーニングを広げたい)」 そうして、老若男女、リハビリからアスリートまでのトレーニングプログラムを開発、教育カリキュラムを整備し、トレーナーの教育を軸に据えながら販売を続けてきている。これまでに開催されたTRXコースは世界70ヶ国以上で、7,000回以上、受講者数は10万人を超えている。ションを維持することが求められていた。当初は自重での腹筋やスクワットジャンプ、バーピーなどを続けていたが、クライミングの動きに必要になるトレーニングができないでいた。そんな中、東南アジアで潜伏中、小さなボートで航行中の船舶に近づき、ロープでその船に乗り込むという任務を言いわたされた。その時カバンの中に偶然入っていた柔術の帯が目に入る。「これをロープ替わりにすればいい」そう閃いたランディさんは、近くにあったパラシュートの紐と縫い付け、ロープに見立ててトレーニングを始めた。特殊部隊員は戦場で使う器具を自分で修理できるよう、高い裁縫スキルと用具を身につけているという。そのことも、TRX誕生に欠かせない要因となった。 このTRXの原型となったストラップでトレーニングをしてみると、クライミングだけでなく、3次元でのトレーニングが可能で、これまで自重トレーニングではできなかったトレーニングを幅広く行えることに気がついた。動きの新奇性もあって特殊部隊員の間でまたたく間に広がっていった。MBA修得中に商品開発を同時進行 この体験から、ランディさんは、この器具とトレーニングを商品に起業しようと、退役後スタンフォード大学経営大学院に進みMBAを修得する。ランディさんは、その間、自宅のガレッジで自らミシンを踏んではプロトタイプをつくり、大学のトレーニングセンターでトレーニングを続けた。プロトタイプの改良は30回以上にのぼったが、その開発段階から大学のトレーニングセンターでは、出入りしていたコーチやアスリートたちの間で話題が広がっていく。みな、一度使うとその効果を実感し、新しい使い方を試したり、要望を伝えてくる。大学でビジネスを学びながら、商品開発も同時に行えることになったわけだ。そして、卒業時には、同大学のコネクションで、3,000万円のエンジェルマネー(個人投資家による出資)も得て、その後すぐに会社設立に至る。海軍仕様で量産へ 生産体制の構築にあたり、まず探したのがベルトの素材だ。望む強度で、想定するコストで、安定して市場に供給できる仕入先を探した。その結果、パラシュートと同じ業務用のナイロンベルトで、150kgまで耐えられる黄色いベルトに行きついた。 次にこだわったのが、2本のベルトの支点になる位置。それまでの体験や実験から、トレーニングをするうえで軍人の平均身長に合わせると、地面から180cmがベストな位置だという結論に達していた。 さらに、ベルトの両端が当初はハンドルだけだったところに、足も掛けやすいフットクレードルも開発した。 そうこうしている中、最初の大量注文は2006年。アメリカ海軍からのものだった。そしてここで現在の商品に至る最終的な改良が施された。バックル部分である。それまでプラスチックで商品化を進めていたが、軍で使う場合、砂漠から南極まで、どんな環境でも安全に利用できる必要がある。さらに、持ち運びを考え、全体で1kg以内に抑えて欲しいというオーダーもあった。その結果、現在も使用されている金属のバックルが開発され、量産体制が整った。トレーナーを味方に フィットネス業界に広がる契機となったのは、2008年。クランチフィットネス、バージンアクティブ、そしてタウンスポーツインターナショナルが相次いでTRXグループクラスを導入した。そして2011年には当時米国のフィットネスクラブチェーンの店舗数で1位、2位を争っていた、24アワーフィットネスとバリートータルフィットネスから大型注文が相次いだ。 そこに至るきっかけも、スタンフォード大学での経験がもとになってロープで船に乗り込むためのトレーニングの必要性から生み出されたサスペンショントレーニングのコンセプト開発者のランディ・ヘトリックさんは元アメリカ海軍特殊部隊に所属。潜伏中も常にトップアスリートレベルのコンディションを維持することが求められた柔術の帯とパラシュートの紐をランディさんが自ら縫い付けて作ったTRX試作品第一号14March,2014 www.fitnessjob.jp

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