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日本の一般生活者の健康度を大きく改善していくために、フィットネスの習慣づけをするムーブメントをつくる絶好の機会にもなる。日本の医療費は年々向上しており、現在約38兆円。古屋さんは「この医療費のほとんどは生活習慣病に起因して費やされているものであり、定期的に一定量の運動をするフィットネスの習慣が身につけば、この医療費をぐんと下げることができる」と指摘する。そして次の試算とともに、医療費を削減する独自のプランを提言している。 「1年間フィットネスクラブできちんと運動を続けた人に、国が会費の全額を負担するとしましょう。仮に日本国民全員がフィットネスクラブに通ったとしても、1・2億人×10万円=12兆円と、現在の医療費の1/3以内で収まってしまうのです。たぶん1週間に3回1年間を通して通い続けられる人は全国民の10%くらいかと思いますので、実際には1・2兆円くらいの支出で済むのではないでしょうか。フィットネスクラブで活き活きした生活を送る人たちがインフルエンサーとなって、フィットネスに参加する人が増え、それは日本経済に高い乗数効果をもたらすはずです」 東京五輪が決定するまでは、「もう後残すところ何年だから無理せずゆったりと…」などと考えていた高齢者の方々が、「あと7年はなんとしてでも生きて東京五輪を見てから死にたい」と考え方を変え始めている。元気に五輪を楽しむには健康寿命を伸ばすことが大切で、そこにはフィットネスが最も有効であることは間違いない。ここが大きな機会になると古屋さんは指摘する。60~70代の比較的元気な高齢者のフィットネス市場は現在も堅調に推移しているが、今後も長期的に着実に増え続けることが予想される。運動に理解があり、相応の倫理観をもつ医師とフィットネスクラブや薬局などとの高齢者のフィットネス市場規模拡大と医療費削減効果06予測 スポーツの環境整備が進むにつれて、スポーツイベントやスポーツ教室も増えることが予想される。そこで必要となるのが、そうしたイベントや教室を企画・運営・指導できる人材である。また、そうしたイベントを楽しめる基礎トレーニングやコンディショニング、スポーツ環境の整備が加速。フィットネスクラブの役割変化へ07予測協働事業や自治体とフィットネスクラブや地元商店街とのタイアップなど、この市場へのアプローチが活性化することは、医療費の削減や地域経済の活性化にも繋がる。健康寿命の延伸を戦略的テーマの一つに掲げる国のバックアップも得られることだろう。そうなれば、社会的にフィットネスを習慣づけるムーブメントが、さらに市場規模を押し上げることにもなるはずである。ケアを指導できる人材である。こうした環境変化の中、トレーナー・インストラクターの活躍の場が大きく広がることは確実だ。 日本最大のスポーツ・健康施設活性化のための専門展・カンファレンスであるSPORTEC事務局長の佐々木剛さんは、こう話す。 「トレーナー・インストラクターの仕事は、これまでフィットネスクラブや、チームスポーツなど、ある程度限定された場でキャリアが考えられてきた感がありますが、今後は『人々の健康を応援する』というカテゴリーで自身の指導サービスの領域を拡充していくといいと思います。今後スポーツ施設の環境整備が進み、トレーナー・インストラクターにとっては、人々に喜びを与えられる場面がどんどん増えていきます。『五輪』という視点で考えるとアスリート育成などに目が行きがちですが、トレーナーにとっての最大のビジネスチャンスは、高齢者をはじめとした一般生活者に、フィットネスを続けて貰い、元気に2020年の五輪を楽しんでいただくことにあると思います。2020年には、団塊世代も65歳を超え、日本の高齢化率も世界に類を見ない数字となることが推定されています。また、日本の人口減への対策として世界との繋がりがより密接になり外国語が話せることのニーズも高まるでしょう。トレーナー・インストラクターのキャリア領域は全方位的に広がっていくことは確実です」地方ではスポーツと福祉の融合へ08予測 地方でも、スポーツ環境の整備が進むことにも佐々木さんは着目する。 「日本のスポーツ施設の多くが、1980年前半までに建築されたもので、30年以上が経過した今、施設の老朽化や、過疎地域の施設の利用促進が課題となっています。ここに2011年『スポーツ基本法』が制定され、地方自治体での生涯スポーツの環境づくりについても言及されていることから地方でもスポーツ施設の建て替えやリノベーションが今後加速することが予想されています」 さらに地方の動きとして注目されるのが、高齢者福祉や障害者福祉とスポーツ環境の整備が同時に進められることで、施設やサービス拠点が融合していくことだという。 「日本ではこれまで福祉の分野は厚生労働省管轄でしたので、パラリンピックは厚労省としての取り組みとされていました。東京五輪を機に、パラリンピックも文科省管轄になる方向性にあることや、スポーツ基本法でも障害者のスポーツ環境整備についての条文が追加されたことを受けて、地方での03日本最大のスポーツ・健康施設活性化のための専門展SPORTEC事務局長。TSO International(株)代表取締役。展示会企画・運営のプロフェッショナルとして、的確な業界動向の読みとそれに応じた市場開発に向けた展示会企画に定評がある。2011年よりSPORTECを運営。来場動員数を1万人から3万人以上へ倍増させてきている。その他に、シンガポールで開催されている日本食の展示会「Oishii Japan」の立ち上げやカフェ・喫茶ショーの企画・運営、アクティブシニアEXPOなど幅広い業界の展示会を手がけている。専門展「SPORTEC」事務局長佐々木剛さん 予測輪は世界へのプレゼンテーションの場ともなる。 日本においては、スイミングや体操、サッカー、バレー、陸上など様々な子どものスポーツへの参加が増えることは確実だ。当然のことながらフィットネスクラブはここへの対応を図ることが求められる。また、マラソン大会やスイミング大会などの市民レベルのスポーツイベントも活況を呈することになるだろう。これらもクラブにとってビジネスチャンスといえよう。 古屋さん自身も理事を務める日本フィットネス産業協会などがイニシアチブをとり、業界を挙げて取り組むイベントやキャンペーンなどの企画も必要になるだろうと話している。November,2013 www.fitnessjob.jp11現在の日本の医療費38兆円12兆円日本の総人口1.2億人×10万円(フィットネスクラブの 平均年あたり会費)全人口のフィットネスクラブ会費を国が補助したとしても現在の医療費の3分の1!
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