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「私たちは、スポーツやフィットネスを啓発、普及に尽力するとともに、スポーツやフィットネスの持つ根本的意義や価値、役割などを再考し、日本の復興や世界の安定に役立つためには何をしたらよいかということまで考えて行動することが必要です」 東京五輪の開催決定に際しこう話すのは、フィットネスビジネス編集長古屋武範さん。 「1964年開催の前回の東京五輪をきっかけに、日本の社会・経済が飛躍的発展を遂げたように、今回の東京五輪もあるべき理想的な社会になることを実現するための一つのきっかけにすること、さらに前回の東京開催から36年間を要していることから、3回目の東京五輪を2056年に開催することを見据え、何をすべきかを考えるようにしていくとよいでしょう」 ビジョナリーな視点をもち、着実に底への到達を目指していくことの必要性を、古屋さんは強調する。 日本のフィットネス業界にとっては、ここ数年市場の伸びが停滞する中、第2の成長軌道に乗るうえで、この7年間の取り組みは将来に向けて大きな意味を持つことになる。 古屋さんの試算によると、この機会を最大に活かせば、2020年のフィットネス業界の総市場規模は一気に上昇し、現在の4,000億円から1兆3,000億円までになるという。つまり、東京五輪がフィットネス業界に及ぼす経済効果はおよそ1兆円弱ということになる。これには、新設される建築物やそこに導入されるマシン、ユーザーが消費するギアやグッズ、飲食物などは含んでいないため、これらを含めるとさらに大きなものとなる。 この経済効果はさらに、開催後もスポーツやフィットネス、介護予防への参加の拡大という形で伸ばすことも可能である。古屋さんは「子供のスポーツ参加人東京五輪・パラリンピックが業界に及ぼす経済効果は1兆円弱04予測スポーツ・フィットネス関連の仕事が国際化05予測口が増えるのはもちろんのこと、2020年には成人のフィットネス参加人口も10%に達し、およそ1,300万人が何らかの形で日常生活にフィットネスを採り入れるようになるでしょう。市場規模も伸び続けます」と話している。 古屋さんは、さらに、本来の五輪の目的にも目を向ける。 「そもそも五輪の目的は、『人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励すること』にあります。スポーツを通じて国際間のコミュニケーションを促すことは、きっとその先で和平や食料・食品、科学の問題の解決に通じる関係をつくっていくことやそれぞれの国の人々の人格形成に等にも好影響を及ぼすはずです」 東京は、今回候補地として挙がったインタンブールやマドリードと比べて、政治的にも経済的にも安定している。だが、世界に目を転じれば相変わらずもっと不安定な社会で生活する人や食料を食べれない人、あるいは現代病ともいえるような不定愁訴を抱える人が多くいて、この数は減っていない。世界の政情や経済状況をみると、シリアやエジプト、トルコ、ギリシャ、アイルランドなどに加え、中国、北朝鮮などもいまだに不安定な状況にあるといえよう。世界の人口が増える中で食糧難や食の安全性の問題も解決される方向性が見出されずにいる。未だに全世界で8・5億人以上(このうち3・5億人は子ども)が飢えに苦しんでいる現状がある。1日1ドル以下で生活する貧困状態の人は12億人いて、先進国でも食品が原因でアトピーや肥満等に苦しむ子どもも増えている。エネルギー問題も深刻で、科学技術は発達したものの、それが原発問題のように、我々の身体に害をもたらすことにもなっている。ITの発達も、反面少なからず我々の体や精神に悪い影響を及ぼしている。 古屋さんはこうした問題の解決に、スポーツ・フィットネスも役立つことができると確信していると話す。トップアスリートになることだけではなく、スポーツやフィットネスにかかわる何らかの関係者になって、国際的に活躍することの可能性は益々広がることが予想されている。サッカーでは既に日本のビジネスモデルを踏襲したアジアチャンピオンズリーグが多くの雇用や消費を生み出しているし、日本は世界でも有数のサッカー選手人材輸出国となっている。このように、監督やコーチ、トレーナーやシェフ、通訳など、多くの分野で優秀な人材が求められており、そこでスポーツ・フィットネスに関わる人の活躍のチャンスは益々広がることになる。東京五共通の目標のもとに、業界を超えたコラボレーションが生まれる03予測 五輪をめぐるビジネスチャンスを狙って、スポーツ業界だけでなく、ほぼすべての業界が動き始める。これは業界の垣根を越えてコラボレーションしやすくなることを意味する。これまでフィットネス業界は、フィットネスに関心を持つ人を中心にマーケティングしてきているし、食品業界も既存の顧客を中心にマーケティングしてきた。これが、パフォーマンスアップや、大舞台での集中力やメンタルタフネスなど、共通のコンセプトのもとに、「運動」「栄養」「休養」に関連するサービスを共創することで、お互いの市場を共有しながら新たな顧客を生み出すことが可能となる。 また2020年までの国の目標として健康寿命を延ばすことがあるが、同様の動きが期待できる。現在、日本の寿命は男性79・94才、女性86・41才だが、健康寿命は男性70・42才、女性73・62才と、実際の寿命と健康寿命の間には約10年のギャップがあり、この差を少しでも減らすことが課題となる。今後高齢化が進むにつれて年金が支払われる年齢が高くなることが予想されることから、個人にとって健康寿命を延ばすことの重要性が高まる一方で、国の財政にとっても、健康寿命が健康寿命と実際の寿命を短くすることで、医療費や介護保険などによる負担が軽減されることになる。 この分野においても、これまではフィットネス業界は健康な人、介護業界は介護が必要な人を中心にマーケティングしてきたが、この垣根を越えて健康寿命を延ばすことに多くの業界と連携して取り組んでいくことが重要であり、そこでフィットネス業界はリーダー的役割を果たすべきと吉田さんの言葉にも力が入る。 「実際に通所介護施設でトレーニングやシナプソロジーに取り組んでいるときの高齢者の方々の生き生きとした笑顔に触れると、本当にこの仕事をやっていて良かったと感じます。我々がもっとやっていかないといけないと思います」02『フィットネスビジネス』編集長。株式会社クラブビジネスジャパン代表取締役。経済産業省「スポーツ情報ネットワーク構築事業」委員、財団法人自由時間デザイン協会刊『余暇需要及び産業動向に関する基礎調査』執筆者、財団法人自由時間デザイン協会「サービス評価研究」委員、社団法人スポーツ産業団体連合会新規事業構築委員などを歴任。テレビ・ラジオへの出演、新聞・雑誌への記事掲載、司会・講演・寄稿・執筆等多数。『フィットネスビジネス』誌 編集長古屋武範さん 予測10November,2013 www.fitnessjob.jp
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