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この『ヨギーニ』という言葉が、ヨガのイメージを一変させたと感じています。男性修行者のヨガから、女性のライフスタイルとしてヨガが広まり、ロハスブームとあいまって広く若い女性の間に浸透しました。今ではどこのスタジオも圧倒的に女性の数が多くなっています。この流れに変化が生まれたのが、2011年3月11日の東日本大震災後です。米国でも2001年9月11日の同時多発テロ以降、瞑想をすることで心の安定を得ようとヨガが広く浸透しました。日本でも、震災以降、陰ヨガ、リストラティブヨガと呼ばれる静的なヨガのニーズが高まっています。特に、陰ヨガは内観を深めて心身を解放させる効果があり、心の安定を取り戻すことができるヨガです。この流れはまだしばらく続くと思います」 ダイナミックな動きを伴い筋肉に働きかける陽ヨガに対して、陰ヨガは、一つひとつのポーズを5分程度ずつじっくり行うもの。関節や靭帯などの結合組織にフォーカスして経絡に働きかけることで内臓も含めた身体の調子を整えようとするヨガである。「ポーズする瞑想のヨガ」とも呼ばれている。最近は陰ヨガのクラスも増えワークショップも数多く実施されており、陰ヨガを志向する指導者も増えているという。 ACOさんは、ヨガブーム全盛期は専門スタジオではポーズ至上主義的な雰囲気があり、ヨガを究めようとするがために、ある種排他的な方向に向かいつつあることを懸念していたという。そうした意味では、近年の流れはヨガが広がるうえで、いい方向性にあると感じているという。今後のヨガは「オフ・ザ・マット」へ 今後、ヨガがさらに広がるためにACOさんが注目する考え方が「オフ・ザ・マット」。ヨガは、マットの上だけで行うものではなく、マットの外、ことに繋がると思います」ヨガ専門スタジオでの人気は、陰ヨガにシフト ヨガの指導を20年以上続けてきているACOさんは、ヨガスタジオを中心に活動している。近年の動向をこう話す。 「もともとインドのヨガが、米国で『パワーヨガ』としてエクササイズ色を強めてシステム化、ドリル化されて浸透し、それが日本にも導入されました。インドのヨガは本来男性のためのもので、『ヨギ』という言葉も本来はヨガを修行する男性を指す言葉でした。これが日本に導入されるまでに、男性と女性の骨格の違いに合わせて行えるヨガも開発されました。2002年頃から日本で始まるヨガブームでは、ヨガの専門誌も登場して『ヨギーニ』という言葉が『ヨガをする素敵な女性』というイメージを打ち出しました。私は、つまり、生活や人生をよりよいものにするためにヨガをするという考え方である。 例えば、ヨガをするとバランスが上手くとれない時がある。その時に、自分のバランスを修正できる力や、修正できる自信をつけたり、すぐには上手くできなくても前向きにやり続けられる気持ちを大切に練習をする。マットの上でのヨガの練習は、マットの外のためのもの。つまり「日常を健やかに生きていくためのヨガ」と捉える。それにより、ヨガ人口もフィットネス人口もこの考え方が志向されることで増えていくとACOさんは考える。 「従来のフィットネスやトレーニングの多くは、生活環境が変わったり、ライフステージが変わったり、何か重大な出来事が起こると、続けることが難しくなってしまう側面がありました。でも、ヨガはいつでも自分のペースで取り組めて、どこでもできるもの。これまでのヨガの歴史の中で、女性向けにも年齢に応じたヨガや出産前後のヨガ、ベビーや子どもたちのためのヨガなど、医学的・科学的なエビデンスに基づいた研究開発も進められています。インストラクターとしても、勉強する時間を大切にして、クリエイティブにヨガを提供していくことで活躍の場はあらゆる場面にあると言えます」 東京近郊ではスタジオもインストラクターも飽和状態から淘汰される段階に入ったとも話すACOさん。だが、地方に目を向ければ、ヨガが浸透していない地域も残されている。その一方で、東京近郊で活躍する人気インストラクターの中にはレッスンの連続で身体を壊してしまう人もいる。ACOさんは、「長くヨガの指導を続けられるために、ヨガインストラクターも、自分のためのヨガの時間を大切にして欲しい」と呼びかけている。ACOさん愛知大学法経学部経済学科卒業。ヨガ専門スタジオを中心にインストラクターを務める傍ら、雑誌やテレビなどのヨガ特集で多くの監修を行っている。これまで多種多様なヨガを習得。アメリカにあるポートランド州立大学の心理学部を卒業した経歴を持ち、スタジオやワークショップでも日本語と英語の2か国語を使ってヨガを教えている。日本におけるヴィンヤサヨガの草分け的存在。独自のアプローチを「テンセグリティー・ヨガ」と名づけて精力的に全国各地でワークショップ、指導者養成講座を開催している。お話を訊いた方16June,2013 www.fitnessjob.jp
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