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December,2012 www.fitnessjob.jp33嬉しそうな表情から感じ取れた。高齢者に対する思いや尊厳を幼少期から抱いてきた彼女にとって、現在のこの仕事は必然だったのだろう。高齢者への運動指導を始めて6年が経つというが、大変だと感じる場面はないのだろうか。 「難しい場面はありますが、好きで始めた仕事ですので大変だとは思いません」 頼もしい返事が返ってきた。そして、高齢者への指導で心掛けている事はという質問にはこう答えてくれた。 「とにかく皆で笑い合える空間作りを意識して行っています。関西的に言う“ボケ〟と“ツッコミ〟。阿吽の文化は、おじいちゃんおばあちゃんの方が厳しくて、おもしろくない事を言った時には、目の前で95歳のおじいちゃんが、『まだまだやな』みたいな顔でニタニタしてますから(笑)。心を健康にするための“笑い〟は本当に大事だと思いますよ」 井上さんの“笑い〟に対するこだわりは、『全員が笑い合える空間を作る』事だという。 「一人二人にしか分からない笑いではなく、参加頂いている皆が常に笑顔を絶やさないで居てくれるように心がけています」 井上さんのこだわりである“皆が〟と思うようになった背景には、子供のころ彼女自身がイジメにあった経験がそうさせているという。辛い心の内を話してくれた。 「子どものころ、友達から『無視』というイジメに遭いました。誰も話しかけてくれなければ、こちらから話しかけても完全に無視。本当に辛かったです。でも、その時確信したんですね。絶対に自分と同じ様な思いを他の誰かにはしないと。そして、誰かがそういと言うが、高齢者への指導を行うきっかけは何だったのだろう。 「単純におじいちゃんおばあちゃんが大好きだから、高齢者の方のためにできる事がしたいだけなんです。今は他界しましたが、私自身おじいちゃん子だったという事も大きく影響を受けていると思います。私にとっては自慢のカッコいいおじいちゃんで、外出する時は必ずパナマハットにステッキという出で立ち。当時、近所ではお洒落なおじいちゃんで有名だったんですよ」 井上さんにとっておじいちゃんという存在は非常に大きく、そして今でも誇らしく思っている事が、その言葉と 「大阪が大好きで今まで大阪を出ようと思ったことはないんです。大阪の人ってお節介なくらい他人の事に入り込んでくる気質があるのですが、そこがまた大阪人のいいところ。私自身そういう文化の中で育ってきたので、知らない人に道を聞かれたりすると、案内通りにその人が目的地に向かえているか心配になり、後ろから一緒にそこまで行ってみたりしています(笑)」 そんな井上さんが現在主に活動をしている場は高齢者への運動指導だという。フィットネスクラブでのジムトレーナーやスタジオインストラクターとしての活動から始めた運動指導の仕事だう状況の時には手を差しのべようと。あの時の辛かった経験が、今の指導の根源にある事は間違いないと思います」 そんな彼女を育ててくれたご両親はどんな方なのだろう。 「両親は良い意味で放任主義ですね。私の考えや行動に対し口を挟んでくるという事はほとんどなく、『全て自己責任』という意識がいつの日からか私の中で確立しました。そして、両親から一番影響を受けた事として、『人と比べない生き方』を学びました。これは、私が生まれてくる時にへその緒が足に巻きついていたのが原因で足の発育が遅かったという事もあり、人と比べずに今できる事を精一杯やろうという事を教えられました」 更に、超が付くほど前向きなお母様からは、毎日ポジティブなエネルギーを注がれているという。そんな、井上さんであるが、このフィットネス業界に入るきっかけ、そして人生のターニングポイントになった大切な方がいるという。 「私が今こうしてたくさんの人たちと出会い、お仕事をさせて頂けているのは井上トキ子先生のおかげです。専門学校時代に出会い、卒業後も公私ともに本当に色々なことを教えて頂き、心から感謝しています」 最後に、今後の活動について聞いてみた。 「正直、はっきりとした目標がないのですが、とにかく今を大切に!自分にできることをコツコツと取り組んでいきたいと思っています」 今回の取材の間、井上さんは「人との繋がりが全て」と何度も繰り返し言っていたことがとても印象的だった。奇しくも、前回のゲスト平塚君も同じように「人との繋がり」、「ご縁」という事を口にしていた。二人に共通して言える事、それは自身の地位や名声を高める事を目的に仕事を考えていないという事。本気で相手の事を考え、敬い、感謝し、とにかく相手に喜んでもらう事だけを考えて仕事に取り組んでいる。 これからも多くの高齢者の方に喜んでもらえる運動指導をしていきたいと話す井上さん。彼女の損得勘定抜きの優しさ溢れる指導で、たくさんの高齢者の方が元気になって頂く事を願い、今回の章を終わりにしたいと思う。有限会社スポーツゲイト代表取締役社長有限会社スポーツゲイトホームページURL:http://www.sportsgate.co.jp個人BLOG:http://ameblo.jp/sportsgate2001/取材後記合掌造りが世界遺産にもなっている岐阜県白川郷に昔から伝わる「結(ゆい)」という制度を皆さんご存知だろうか。結とは、田植えや冠婚葬祭、そしてこの制度の象徴でもある茅葺き屋根の葺き替え作業の際に人手を出し合い皆で助け合うという制度なのだが、井上さんがこだわる “皆が〟という部分に共通するものがあると感じた。皆で助け合う、皆で楽しむ。これらは全て人と人との結びつき、まさに「結」だ。人間は一人では生きていけない。だからこそ、全ての結びつきを大切に生きていくべきだと、今回井上さんとお話する中で強く感じる事ができた。INTERVIEWER 丸山 寛
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