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竹村さんのほか、ダンサーチーム5人で同社の運営はスタートした。メンバーは皆、京都では知名度が高かったため、集客は順調だった。しかし、竹村さんはダンサーとしての経験や知識はあったものの、経営的な思考がなく、オーナーから指摘されることも多かった。「講師はダンサー仲間、生徒とも友だちの延長のような感覚でしたが、会社として運営していく以上それではいけないとオーナーから指摘されました。プレイヤーとしての意識が抜けず、イベントのクオリティやレッスン内容を高めることを突き詰めて考えてしまっていましたが、経営者はもっと先のことを広い視点で見なければなりません。しかし、頭ではわかっているものの、最初の5年ほどはプレイヤーの視点でしか見ることができませんでした」 転機が訪れたのは、設立から7年ほど経った2005年のことである。設立以来、毎年年末に京都府内で一番大きな会場でイベントを開催していたが、この年、出場者が集まらずに止む無く開催を見送ることになったのである。「少しずつお客さまが減っていることには気づいていましたが、『イベントの時期になればなんとかなるだろう』と高をくくっていました。それまで順調だったこともあり、経営に胡坐をかいていたんですね。ダンスが上手であればいいと、接客にはそれほど力を入れていませんでした。ダンススタジオが増えたことで、競争力をなくしていたのです。これを機に、このままでは少ない牌を複数のダンススクールで取り合うことになると、キッズスクールをメインにするよう方向転換することにしました」 それまで、スクール生の8割は成人だった。それを、子ども中心に変えることで将来的にダンス人口を増やしていくことを考えたのだ。 キッズスクールを行うためには、これまでとは運営スタイルを変える必要があった。成人のお客さまには“なんとなく”で成り立っていたコミュニケーションが、子どもには通じない。また、生徒である子どもだけでなく、保護者にも満足していただかなくては継続してもらえない。仲間に対して“師匠と弟子”という感覚で提供していたレッスンを、きちんとサービスとして確立させる必要があった。「教え方はもちろん、イベントの告知、レッスン前後の挨拶など、保護者とのコミュニケーションもしっかりとるようにしました。保護者から信頼していただいたうえで、楽しいレッスンを提供することが求められていたのです」 また、それまでの失敗の経験を活かしてお客さまとのコミュニケーションを密にとることに最も重点を置いた。体験や見学に来た方のアフターフォローを丁寧にする、お客さまの情報を講師間で共有するなど細かいことにも気を配り、サービス業の基本を徹底した。お客さま一人ひとりを大切にすることの重要性を痛感していたためである。 イベントなどでのプロモーションを強化し、順調に集客していった。子どもたちが通いやすい立地に、2009年から2010年にかけてスタジオを10校まで増やしたことも功を奏した。 それに伴い、指導者の育成が必要になる。すでに設立から10年が経過し、ダンサーは育ってきていた。しかし、踊りが上手なダンサーが必ずしもよい講師ではない。教え方や子どもとの接し方など、コミュニケーション力に長けた人材を育てるために、生徒が指導者となる仕組みをつくっていった。 子どもたちの多くは、EXILEや安室奈美恵などに憧れを抱いて、ダンスを始めている。その夢を少しでも実現させたいと、京都ローカル放送局に同社の番組をつくった。「上手になればテレビに出られる」というのは、ダンスを始める子どもたちにとって非常に魅力的であり、同社の強みにもなっている。 今後の目標は、「ダンサーの社会的地位を向上させること」と「子どもたちに夢と希望を与えること」。「ヒップホップもだいぶ世間に広まってきましたので、今度はより深い部分を追求していきたいと思っています。本格的にヒップホップを習いたい人に、歴史や思想などを伝えていきたいですね。キッズスクールに関しては、テレビや雑誌などメディアに露出する機会を増やして、彼らの夢を叶えるサポートをしていきたいです。経営は5〜10年目に試行錯誤を繰り返してようやく落ち着いてきましたが、今後も必要に応じてスタジオを増やし、顧客管理システムや教育体制を整えていきたいと思っています」 すでにたくさんのダンサーを育ててきた同社は、今後もたくさんの子どもたちの夢を背負い、将来のダンス業界発展に貢献していくだろう。ダブルダッチスピード競技のギネス世界記録をもつ「alttype(オルトタイプ)」03キッズスクール主体のビジネスを確立04ダンス業界拡大のビジョンに向かって展開「ビートライブTV」KBS京都で毎週放映している、ダンスやダブルダッチを紹介する番組。出演、制作などすべて自社で行っている。Product02経営的視点の欠如設立7年目に転機社名の由来 ビ=ビート“心踊る”トライブ=“いかした一族”所在地 京都府京都市南区東九条河辺町31番地 十条シティハウス1FTel 075-691-5666webサイト http://www.b-tribe.co.jp設立 1998年7月資本金 1,000万円組織 社員4名、インストラクター42名収支構造 【売上】ダンススクール経営、イベント企画・運営、貸スタジオ、 ダンサー・ダブルダッチャー派遣ほか 【経費】人件費、家賃、映像制作費November,2012 www.fitnessjob.jp35Organization Dataオフィス・ビ・トライブ株式会社
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