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September,2012 www.fitnessjob.jp1515指導からカウンセリングへ 行動変容モデルとは、新しい行動週間を身につけるまでに、5段階のステージを経るという考え方で、医療現場ではタバコやアルコールの習慣改善に活用されている理論と手法である。管理栄養士としてアマチュアスポーツチームの栄養アドバイスや一般生活者の健康づくりをサポートする仕事に従事する小泉智子さんは、栄養指導のあり方が変わってきている今、この行動変容モデルを活用したアドバイスへのニーズが高まっていると話す。「以前の『栄養指導』は、栄養士などがクライアントの身体の状態などに合わせて『こうしてください』と理想的な栄養バランスや、量などを考えた食事を"指導する"スタイルでしたが、現実的な行動に繋げるために、その内容は『栄養相談』から『栄養カウンセリング』へ変わってきています。『栄養相談』は、一方的ではなくクライアントの話を聴きながら栄養士が改善する内容を決めるスタイル。さらに、『栄養カウンセリング』のスタイルでは、クライアント本人が改善すべき内容に気づき、改善することを決めるように導きます。この『栄養カウンセリング』を行ううえで効果的なのが、行動変容モデルを活用して、相手の方の段階に合わせた話をすることです」クライアントのステージを見極める 小泉さんはスポーツチーム選手も一般生活者も、一度必ず1対1で話をする機会を設け、それぞれの人のステージを確認したうえで栄養のアドバイスを行うようにしている。そこでポイントとなるのがヒアリング力である。クライアントが使う言葉や、話の内容から、おおよそその人のステージが把握でき、それに合わせた問いかけをする。 例えば「これまでダイエットしたことはありますか?」「サプリメントを買ったことはありますか?」「リコピンって知ってますか?」など、その方の栄養や食事への関心度が推測できる質問をする。 無関心期にある人に多いのは、「先生や医者から言われた」とか「健康診断の数値が悪かったから」という人。できれば何も変えたくないと思っていて、半分開き直っている人がこのステージにある。関心期にある人は、「何か変えなきゃいけない」と思い、ある程度情報は持っているものの、行動を先のばしにしていたり、情報を得るだけでやった気になっている人。準備期にある人は、例えば「3ヶ月後に健康診断の再検査がある」といった、目的がはっきりしている人。そして、実行期にある人は、運動や食事を変えてみたが、やっていることが正しいのか迷いがある人や、結果が思うように出ていないという人。そして維持期にある人は、もっと効果的に、気持ちよくその習慣を続けたいと思っている人である。ここで、小泉さんは特に無関心期の方への対応が重要だと話す。 「無関心期と関心期以降ではアプローチが全く違います。関心期以降は、その方の知識や行動を修正するだけなので比較的進めやすいですが、無関心期の方については、とにかく徹底的にヒアリングすることが必要です。以前、『このままでは○○になりますよ』と脅して行動変容を促していた時代もありますが、現在までにこの方法では新しい習慣が定着しないことが明らかになってきています。今は『認識形成』と言って、話をしながら『やってみようかな』という気持ちを引き出し、その気持ちを認めたうえで、適切な知識を提供してその意識を固まらせるという段階を踏みます。そして1週間後までにできることを確認して予約を入れていただき、次に会った時に、できたことを認めることで『やってみようかな』という気持ちを定着させていきます」運動面では「実行期」でも栄養面ではステージが低い人も 継続要因として専門家の存在も重要だと小泉さんは加える。専門家に褒められる、肯定されることで新しい行動習慣が定着する。そのためにも、トレーナーやインストラクターは、クライアントのデータを保管し、前回と比較しながら、新しい行動を褒めるだけでなく、理論的にも肯定することが重要だという。 「運動のアドバイスが欲しいと思っている方は、潜在的に栄養のアドバイスも欲している方がほとんどです。ですが、多くの方は食事について相談すると、甘いものやお酒など辞めたくない行動変容ステージモデルとは1980年代前半に禁煙の研究から導かれたモデル。その後、食事や運動をはじめ、いろいろな健康に関する行動について、幅広く研究と実践が進められている。人が行動(生活習慣)を変える場合は、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ると考え、それぞれの期に合った働きかけをすることで行動変容が実現できるというもの。行動変容モデルとその活用法お話を聞いた方小泉智子さんスポーツ健康科学修士、管理栄養士、健康運動指導士立教大学卒業後、OLを経て、管理栄養士の専門学校へ。サクラダイニング、味の素ナショナルトレーニングセンターなどで栄養指導を行う他、チームや選手に栄養指導を続けてきている。順天堂大学講師として、健康栄養論として行動変容を活用した栄養指導法などを啓発している。ものについてとやかく言われるのが嫌で相談しない方も多くいらっしゃいます。フィットネスクラブにいらっしゃる方は、運動について関心期以上にある方ですので、栄養についてもステージを1つ上げるだけでも、運動効果も高まりますし、信頼関係も強まり、運動の継続も促せるはずです」 行動変容モデルを活用した行動習慣を変えるサポートには、現在では医療現場の看護師が当たっているケースが多く、そうした現場では専門書『保健指導・患者指導のための行動変容実践アドバイス50』(医歯薬出版)が支持されているという。フィットネスの指導者も多くのヒントが得られるはずだ。栄養学心理学CASE051ヶ月以内に行動を変えようと思っている準備期行動を変えて6ヶ月未満である実行期行動を変えて6ヶ月以上である維持期6ヶ月以内に行動を変えようと思っている関心期6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない無関心期
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