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トップアスリートのトレーニングの現場遠山さんに訊く自分の課題を把握し、それを自分で解決していけるように導いています。フィットネス施設でのパーソナルトレーニングの指導も週1〜2回、1回1時間程度のトレーニングで結果を出すためには、クラブに来ていない時間がポイントですよね。同じように自分で課題を解決していける自立心を、トレーニングや運動を通じて選手に伝えていきたいと思っています。全員が全員オリンピックに出場できるわけではない。課題解決能力は社会人に必要なライフスキルでもあります。選手には引退後の生活もハッピーであって欲しいと思ってます」 スキー競技の中で現在オリンピック種目になっているのは、ジャンプ、コンバインド、クロスカントリー、アルペン、フリースタイル、スノーボードの6種目。特にフリースタイルスキーに属しているモーグルは1992年のアルベールビル冬期オリンピックから正式種目に、さらに、2014年のソチオリンピックから、フリースタイルのハーフパイプやスノーボードのスロープスタイルが正式種目になるなど、新しい種目でのトレーナー需要が出てきている。 そこで活躍するトレーナーの1人、遠山健太さんは25歳でトレーナー業界に入り、現在トレーナー歴は13年。大学のチームやフィットネスクラブでのトレーニング指導で下積みを重ねる中で、現在の仕事に繋がるきっかけを掴んだ。 最初に日本代表レベルの選手のサポートに携わったのは、トレーナーになることを決意して携わった東海大学男子バスケットボール部でのトレーナー活動。東海大学スポーツ医科学研究所の研修員として5年間指導にあたった。当時通っていた專門学校1年目でCSCSを取得していたことから、有資格者として選手たちのトレーニングに携われたものの、トレーナー活動はボランティア。フィットネスクラブでの仕事で収入を得るものの、大学に通う交通費で飛んでいくという下積み生活が続いた。 そんな中、トップ選手に携われるきっかけが訪れた。東海大学のバスケットチームに世界ジュニアアジアバスケットボール選手権のメンバーとして活躍していた選手がいっきに5人入学してきたのだ。その後同チームの理解もあり、合宿帯同にかかる費用やチームウェアなどを提供してもらいながら、トレーニング指導に専念する日々。それから2年後に、東海大学は2部リーグから1部リーグに昇格を果たした。 ただ、依然生活は厳しく、1部リーグに昇格したら仕事を辞めようと考えていた遠山さんのところにタイミング良く舞い込んだのが、国立スポーツ科学センタートレーニング体育館(JISS)での非常勤トレーニング指導員募集情報だった。その面接に受かり、同時期に全日本スキー連盟の情報・医・科学委員会からのトレーナー要請もあった。更にフィットネスクラブでの研修や専門学校での講師などの仕事も増えていく。東海大学スポーツ医科学研究所時代の恩師である有賀誠司教授から「この仕事は最初は辛抱。地道に続けていれば必ず報われることがきっとある」と励まされ、それが5年目で実現した形となった。 それから更に5年経った昨年には会社を設立し、アスリート達のセカンドキャリアをサポートしたり、アスレティックトレーナーやストレングス&コンディショニングコーチの活躍の場を広げる活動をスタートさせている。 遠山さんは奇遇にも株式会社R-body Pproject代表取締役の鈴木岳さんとワシントン州立大学での同期生だ。遠山さんの学位は、エレメンタリーエデュケーション(教育学部小等学科)。教育学を専攻していた事が現在のトレーナー活動に良い影響を与えている。学生時代に打ち込んだスポーツは剣道とゴルフで、大学卒業後はプロゴルファーを目指して研修生の道を選んだ。そうした経緯でトレーナーとしてのスタートは遅めだが、短期間に駆け上がるようにトップトレーナーへの道を進んできた。遠山さんはこれまでを振り返り、フィットネス施設での指導経験が、現在のトップアスリートの指導に活きていると話す。 「フィットネスクラブの仕事で、例えばパーキンソン病の方にリハビリの一環で自重のスクワットを指導した経験があります。でも当然一筋縄ではいきませんよね。クライアントさんの身体に制限がある中で、様々なコンディショニングアプローチを経て、最終的にハーフスクワットができるようになりました。当時は参考にできる情報は少なく、その方の身体の調子も日によって違う。そんな中で、周りに相談したり、自分の知識や経験を総動員させて工夫したトレーニングで実績を出せたことは、今の仕事の原点になっています。トレーナーとして選手指導で心がけていることは『課題解決型の人間育成』です。特に現在の役割であるストレングス&コンディショニングコーチは、試合に帯同できる機会も限られていますし、予算の関係上トレーナーも常にチームに帯同できるわけではありません。ですので、選手自身がスキー競技の選手のトレーニングを中心に関わっています。競技は雪上ですが、トレーニングは陸上での『ベーシックトレーニング』がほとんどです。重量上げ(クイックリフト)を中心としたフリーウェイトや、走り込みなど重視しています。重量上げは床反力を利用したエクササイズで、力の伝達をスムーズにしたり、パワーの養成に効果的なトレーニングですし、走り込みはその強度・距離によってハイ・ミドル・ローのそれぞれのパワーを養成できる他、体幹の安定性向上も期待できます。選手たちには以前トレーニングの一環で東京都の重量挙げ協会が主催する大会にも出場させた事がありました。このように競技間の交流の意味も含めて他競技選手と合同トレーニングすることもよくあります。アスリート指導を夢みる若いトレーナーさんは業界に多くいると思いますが、フィットネスの現場で地道に運動指導に携わっていればその道は必ず開けると思いますし、何よりもアスリート指導現場では経験できないような事が多く学べますので、そういう経験を積み重ねる事が大切なのではないでしょうか。遠山健太さん合同会社ウィンゲート代表社員。1974年米国ニューヨーク州生まれ。 ワシントン州立大学教育学部小等科卒。東海大学スポーツ医科学研究所研修員を経て、現在は全日本フリースタイルスキーチームトレーナー、JOC専任メディカルスタッフ。 競技種目や所属団体、取得資格などの枠を超えたスポーツ指導者間のネットワークを築き、選手や指導者の活躍の場を広げる活動を推進している。CSCS,adidasパフォーマンストレーニング認定トレーナー。フィットネス施設での指導経験がトップアスリートの指導に活きる03CASE16July,2012 www.fitnessjob.jp

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