May-June 2012 ◎ Fitness Business 6033差異化しようFB Column時 評今年3月、L.Aで開催されたIHRSAコンベンション2012への参加を兼ねて、複数のフィットネスクラブを視察した。米国のクラブ視察は、この20年間ほど毎年欠かさず行っているが、今年ほど大きな変化を感じた年はなかった。マーケティングもブランディングもされていない総合型のフィットネスクラブが価格競争や価値競争にさらされ淘汰されているのだ。総合クラブ同士の競争は厳しさを増し、M&Aや閉鎖撤退などダイナミックな動きも見られるが、特に競争力をもって拡大し、総合クラブを脅かす存在となっているのがバジェットクラブとマイクロジムだ。バジェットクラブとは、「プラネットフィットネス」などに代表される初心者対象・低価格・コンパクト・24時間営業・セルフスタイルを特徴とする業態だ。最近ではカウンセリングやメンバー間のコミュニケーションを強化したり、パーソナルトレーニングを取り入れるなどしてサービス強化を図り、リテンションを高めているクラブもある。“安かろう、悪かろう”ではなく、しっかりと生活者のニーズを捉え始めてきている。一方、マイクロジムは100ドル程度の月会費をとったうえ、さらに別料金にて、日替わりメニューで構成されたサーキットトレーニングをスモールグループに対して提供している成果志向のジムである。たいていファンクショナルトレーニングの指導ができるトレーナーがオーナーとしてクラブを開設し、自身で運営も手がけている。延床面積は100〜200坪程度で、「クロスフィットネス」の提携店はこの代表といえる。最近は上記2業態の中間業態も現れている。「エリプス フィットネス」など、延床面積70坪程度でエントリークラスに特化したグループエクササイズだけを提供するフィットネススタジオ業態が登場し、伸びてきているのだ。同業態の月会費は60〜80ドルで、ランニングコストが月々7,000〜11,000ドルくらいしかかからないため、損益分岐も低く、会員数にして120〜150名で利益をあげることができる。こうした業態は日本でも今後多数出店し、やがて総合クラブを脅かす存在になることだろう。これまで日本のフィットネス市場は欧米ほど競争環境が厳しくなかったため、実力のない総合クラブでもリストラや返済のリスケなどで、なんとか生き延びることができたが、これから低成長経済で生活者の可処分所得が減少するなか、そうしたクラブは生き残ることは難しくなるだろう。では、総合クラブを運営する企業はどうすればよいのか? それはかねてからいうように、“総合”の魅力を高め、リテンションを促し、評価を高めること、そこで培った強みを活かして地域の健康ニーズを捉える新たな事業を見出すこと、さらには“総合”を求める顧客とは異なる顧客を捉える新業態を展開していくことだろう。今後の経営を考えるときに、かつての大原則であった“戦略のA・B・C”だけを適用していては生き残れない。“立地・施設・料金”や“駅前・大型・エコノミー”、“ジム・プール・スタジオ”といった、いわゆる“戦略のA・B・C”だけでは勝ち残れないのだ。今後はそうした“A・B・C”を超えて、さらに“D・E・F・G・H”を備えなければならなくなるだろう。DとはすなわちDifferentiation(差異化)だ。基本に忠実なマーケティングをしたうえで、さらにターゲットとしてフィットネス初心者を見据えるなど、明確に絞り込み、自社の強みを活かした魅力をひとつでもよいからつくり、差異化していくことが必要となろう。その魅力は、ターゲットした顧客層がきちんと評価する本質(Essence)的価値を備えたものでなければならない。これがすなわちEだ。本質的価値とは、つまるところ成果と楽しさの2つに集約されよう。この2つを実現するのに、今、欧米のフィットネス業界で着目されている要素がFとGである。すなわちファンクショナルトレーニングとグループプログラムだ。提供プログラムをきちんとマーケティングするとともに、お客さまにきちんと成果を提供できるトレーナー・インストラクターを育成していくことが欠かせなくなるだろう。それをしたうえで、最後に最も重要となる要素がHだ。このHはこのビジネスのまさに本質といえるHospitalityだ。スタッフらが自ら主体的に動けるように、ICTなどを活用して基礎的なサービスシステムをつくったうえで、組織開発に日々継続して取り組むことが大切となる。ぜひ“A・B・C”に続く、“D・E・F・G・H”について見直して、改めて未来に向けて進んでいくことができる戦略シナリオをつくってほしい。フィットネスビジネス編集発行人古屋武範text by Takenori Furuya
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