Fitness Business 60 ◎ May-June 201228注 目 の 動 き制度に頼らない介護予防戦略の策定急務平成24年度介護報酬改定への対応News & Trends今年4月、介護報酬改定が実施された。フィットネスクラブ企業が最も参入しやすいサービスである通所介護(デイサービス)の改定について、その背後にある厚生労働省の意図や対策など、介護事業分野に詳しいコンサルタントである株式会社メイビス代表取締役青山敏氏に聞いた。以下に、同氏のコメントを掲載する。拡がる市場、下がる収益厚生労働省の資料によると、「サービス提供時間の実態を踏まえるとともに、家族介護者への支援(レスパイト)を促進する観点から、サービス提供の時間区分を見直すとともに12時間までの延長加算を認め、長時間のサービス提供をより評価する仕組みとする」という説明とともに、P29資料1のようなデイサービスの報酬改定が行われた。これは、平均的なデイサービス事業者にとって、プラスであろうか? マイナスであろうか? 一見わかりにくいが、ほとんどの事業者にとっては10%以上の減算となる。通常のデイサービスは、スタッフの労働時間が8時間なので、帰りの送迎を終えて、片づけや記録記入などの時間を考えると、6~7時間のサービスとなっている。デイサービスで一番割合の多い要介護1の場合、7時間のサービスなら従来790単位であったところ、改定後は700単位となる。30名定員のデイサービスを25日稼働させた場合、50万円以上の利益が減ることになる。減少率は13%近くあるので、営業利益率が20%のデイサービスの場合、今までと同じオペレーションなら7%の利益しか出ないことになる。一方、 短時間のサービス区分である、所要時間3時間以上4時間未満は、3時間以上5時間未満となり、 要介護1で437単位から461単位と5.5%増加している。このため、介護予防プログラム提供に特化し、入浴や食事を割愛した3時間のサービスを1日2回程度入れ替え制で提供するタイプのデイサービスは、基本サービス費分は増えることになる。ただし、改定前に算定できた機能訓練加算27単位が今回、基本サービス費に包括されたため、実質的には売り上げが増えない。この変更の背景にどのような意図があるのであろうか? いろいろな見解があるであろうが、筆者は、一人あたりの介護給付の引き下げが厚生労働省の意図であると見ている。サービス提供時間の最頻値が7時間程度であることがわかったうえで、7時間の場合、2桁の大幅減算になるような制度改定を仕掛けたことは明らかであろう。施設介護から在宅介護のシフトを強調しながらも、在宅介護事業者が利益をますます出しにくい制度に改定しているわけである。今回の報酬改定に関する新聞各紙の発表は、介護報酬1.2%増、在宅介護市場の拡大というメッセージを出したところが多いと感じたが、確かに市場は拡大するであろうが、収益性は下がるという事実を見逃してはならない。同様に訪問介護も有料老人ホームも大きなマイナス改定となっている。介護市場はこの先も成長するが、収益性は落ちて行くという前提で戦略を組み立てる必要がある。業界再編も加速、 生き残りへの取り組み急務今回の改定に対して、多くのデイサービスは売上減を回避するために、サービス時間を長くする、専任の機能訓練指導員(看護師や理学療法士)を配置するなどの対策を講じているが、売り上げを維持できても人件費は増えてしまい、利益は確実に減少するであろう。今回の改定の影響で、倒産や撤退を余儀なくされる事業所が増え、また力のある大手企業によるM&Aが加速し、業界再編が引き起こされることになると予想する(有料老人ホーム業界2位の株式会社メッセージが大手在宅介護会社の株式会社ジャパンケアサービスを買収したのは、この幕開けであろう)。内需の数少ない成長産業でありながら、一夜にして収益性が劇的に変わってしまうハイリスクな介護サービス市場で生き残るには、2つの方向性が考えられる。1つは、多様なサービスに参入し、制度リスクを分散する方法である。最大手の株式会社ニチイ学館などは、これを意識した事業戦略を立てている。もうひとつは、できる限り公的な保険に頼らないビジネスモデルを構築することである。メッセージや株式会社ベネッセスタイルケア、ワタミ株式会社の介護などは、介護保険の売上割合が50%程度に抑えられる有料老人ホームビジネスに特化することで、高い収益性を維持してきた(しかしながら、今回の改定と老人福祉法の入居一時金規制により利益率が下がることが予想される)。フィットネス企業の場合、地域支援事業などに参入し、介護予防を促進する行政と連携しながら、介護予備軍の高齢者に健康管理サービスを公的税源に、できる限り頼らないかたちで提供するモデルが考えられる。日本では公的な財源を前提としたビジネスは、この先どんどん成り立たなくなるだろう。そのため、日本の介護会社はノウハウを活用してアジアに活路を見出すようなビジョンをもつことも生き残り戦略のひとつとなろう。
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