177May-June 2012 ◎ Fitness Business 60パフォーマンスを向上させるにはこの基礎体力がなければ向上しない、ひとつでも欠ければそこからほころびが出る。全体を見て、弱点を探してそれを補強する行為を35年間続けているのだ。青木プロ本人はトレーニングの内容にカテゴリーがあることは知らないが、要求は鋭い。「今年はここを強化したい」「スタミナはいらない」「ここの柔軟性がなくなってきた」。このような要求に合わせてプログラムを毎年変化させている。そのようななかでも、青木プロが以前から徹底して行わないのが筋トレマシンでのトレーニングだ、特に上半身の筋トレはそうだ。私は35年前からマシンを輸入している。ジムを日本中につくりたいと思っていたので、当然青木プロにも使ってもらった。しかし、一瞬で「これはゴルフに役に立たない、俺はやらない」と拒否された。その後、肩の怪我、膝の怪我があり、リハビリの際にはマシンを使ってくれるようにはなったが、上半身の強化には決して使わない。ゴルフの動作の機能的な動き(ファンクショナル)に邪魔になるという理由からだ。常に合宿の基本メニューは腹筋背筋とランニングだ。スクワットも勧めたが却下された。「歩く、走ることで養われる下半身の強化と、無理に重量物を使う下半身強化では効果が違う」というのが理由だ。青木プロは、50年のプロ生活で膝も悪く半月板もすり減っている。70歳を迎え、機能も衰えている。もちろん角度を浅くして大腿四頭筋の強化、ハムストリングの強化は不可欠だ。同氏が「これはゴルフに役に立たないと思う」と拒否すれば、そこからお互いが新しいメニューを考える。その結果、35年前から変わらないのが先ほども述べた腹筋と背筋のエクササイズ、今流にいえば体幹トレーニングだ。「ゴルフに役に立たない」は、要するに「ファンクショナルに合わない」ということだろう。そんなプロのファンクショナル・トレーニングもそれをするに相応しい筋トレマシンでやれば、身体の回転力や動きのパワー値までがわかる時代になった。リアルなファンクショナルが目に見えるようになったのだ。青木プロもファンクショナルを確認に、コンディショニングセンターにやって来る。キーワードは「ファンクショナル・トレーニング」国立大学法人鹿屋体育大学 客員教授 比佐 仁本誌でも何度か取り上げられているように、今年のトレーニングのキーワードは「ファンクショナル」だろう。ここに行き着くまでにトレーニングの指導法は、アイソメトリックス、可変抵抗、ダイレクトレジスタンス、アイソトーニック、アイソキネティック、さらにバーベル、ダンベルの直接負荷、スロートレーニング、初動負荷、古武術、果ては加圧など、時に様々な方法にスポットが当たった。ファンクショナル・トレーニングは近代トレーニングが始まって以来、60年かかってやっと辿り着いたトレーニング法の本質だと私は思う。そもそも日本では、マシンジムがなかった昔のトレーニングは、すべてがファンクショナルな考え方に基づいたものではなかっただろうか。私がトレーニング指導を始めた35年前は、マシンもなく、鋳物工場でつくられたバーベル、ダンベル、通販で売られている腹筋台があるくらいだった。自重を負荷にした腹筋、背筋を基本に下半身の強化を基礎筋力強化プログラムにしていた。そんなときに私はプロゴルファーの青木功氏に出会った。35年前の雪が降る日、私は栃木県にある東の宮ゴルフクラブで青木プロと合宿をしていた。アメリカの試合に参戦するため、体力づくりをしていたのだった。この前年、ボブ・アンダーソン氏を招聘してストレッチングを日本に紹介していた。日本のプロアスリートがストレッチングを始めたのもこのころだ。青木プロもストレッチングを気に入って開始した。当然マシンもない、ジムなんてあるはずがない。合宿での筋トレは自重を負荷にしたトレーニング、心肺機能のスタミナアップには雪の降りしきる早朝のジョギング、下半身強化にはダッシュ、クイックネスのアジリティー・ドリルで筋の調整を行っていた。これも当時の日本ではまだ行われていなかったことだ。これが青木プロとの合宿のスタートであり、ここから毎年合宿を続けている。雪の降る日本を避けてハワイ島での合宿でも内容は変わらなかった。筋力トレーニング、パワートレーニング、スタミナのトレーニング、柔軟性のトレーニング、これに、ラウンドするゴルフ特有の動きに対する専門的なトレーニングを組み合わせてきた。Opinion連載43主張 ◆比佐 仁(ひさ・じん) 有限会社フィットネスアポロ社、株式会社スポーツプログラムス代表取締役。30年前のフィットネスクラブ、スポーツクラブ黎明期から日本のトレーニングを職業にしている。アスレチックトレーナーで日本野球連盟医科学委員、1987年以来20年にわたり、ソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネ、北京・オリンピックの強化スタッフを務めている。トレヂエ通信 http://trainingnochie.blog41.fc2.com脂肪燃焼苦楽部大汗大作戦ブログ http://ooase.at.webry.infoスポーツ科学ブログADSS日記 http://apollo-adss.at.webry.infoText by Jin Hisa
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