Fitness Business 60 ◎ May-June 2012166のでしょう。そもそも人はいったいどういう理由で、また、何に「価値」を見出して、大事なお金を出してモノやサービスを買うのでしょうか? この疑問は簡単なようでいてかなり難しい疑問だと思います。ここで、まず「着る」という行為を例に挙げて、その「価値」について考えてみましょう。本来「着る」という行為は、寒暖に対する防護に始まったはずですが、今や恥じらい・見得の対象となってふんだんに衣服が買い求められています。次に「食べる」という行為についても考えてみましょう。生きるための栄養摂取が本来の理由だったはずが、今や美味しさを楽しむことや、また交流の手段とさえなっています。住居においては、昔のように雨風をよけるといった素朴な需要から、今やより快適な日々を過ごすための手段という概念に拡大されています。このように、衣食住という根源的な生活手段ですら、欲求が多様化し、その充足にもいろいろな手段を講ずることが求められ、そこに需給のバランスがとられています。つまり、現代では人々の欲求の多様化から、ものやサービスの価値というものが、単純には測りにくくなっているのです。フィットネスクラブにおける「フィットネス」という行為も、フィットネスライフという言葉に象徴されるように、年月をかけた継続的・長期的な取り組みによって初めてその成果が実現するものであり、そこに本来の株式会社THINKフットネス取締役である石渡元治氏による連載。時代の変化などによって、クラブ側は多様化するお客さまの欲求それぞれに応えることが難しくなってきている。そもそも、お客さまはフィットネスのどこに「価値」を見出しているのか。自身のクラブ利用経験から考える。View多様化するフィットネスクラブの「真の価値」石渡元治見 解ものの弾みでFacebookに登録したもののさほど利用もせずにいますが、先日77歳の誕生日を迎え、何名かの方々からお祝いのご挨拶をいただきました。本誌の古屋編集長からも「誕生日おめでとうございます。元気な高齢者の代表として、また日本に真に価値あるクラブのモデルをつくるためのキーマンとしても、まだまだ現役で頑張ってください」との励ましを受けました。過分な激励に恐縮する一方で、「真に価値あるクラブって何だろう?」という課題について考えなければいけないな、という義務感を覚えました。また、今回の内容を書くにあたって、動機となったことがあります。先連 載 9日、ある研究会の発表で、専門学校の学生たちを前にある企業さまが「当社はオリコンのCS調査でトップになりました」と誇らしげに紹介しているのを聞き、ふと素朴な疑念が生じたからです。確かにそれは素晴らしいことではあり、その企業さまには敬意を表したい気持ちになる一方で、お客さまのご満足(Customer’s Satisfaction)を得ることが、本当にクラブの良否を決める尺度なのだろうか?と考え始めたからです。オリコンのCS調査の項目とは具体的に何なのだろう? その項目がクラブの良否を決めるに十分な内容を盛り込んでいるのだろうか?ということも感じました。かつて私は、お客さまはなぜクラブに来るんだろう?と思い、その要因を単語でならべ始めたところ、「運動して健康になる」といったプリミティヴなことから「彼女・彼氏を見つける」といった風変わりな(存外、ホンネか?)ことまで、たちどころに数十もの項目が出てきました。我ながらビックリしつつ「じゃあ、そのなかでどの項目に重点を置いて、わがクラブは応えるべきか」を思索したことがあります。「これは解決すべき重要な課題だぞ」という問題意識から、幹部の社員の方々に問題として投げかけてみたのですが、どうもその発案にさしたる意義を見出せなかったようで、暖簾に腕押しふうに受け流されてしまい、失望したものでした。そんな迂遠なことなど考える前に、どうやって部下を働かせるか、どうやって入会を増やすか、といった目の前の課題で手一杯だったPersonal Profile石渡元治(いしわた もとはる)現・THINKフィットネス取締役(非常勤)。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業後、明治製菓勤務。40代では工場開設や新会社設立などを経験。また、50代のときにはザバスブランドを手がける健康産業事業部長、明治スポーツプラザ社長としてともに事業再建に成功。生涯現役会員として、77歳の現在もスタジオレッスンに参加している。
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